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 ベッドに腰かけた亜里沙は、長い脚を組んだ。
抑制の効いたスプリングに体重を乗せ、服を脱いでいる葵の背中に話しかける。
「アンタも馬鹿ね」
 声には言葉通りの、冬の魔女めいた嘲笑の響きがあったが、
同時に秋の枯れ葉のような乾いた憐れみを帯びてもいて、どちらが本意なのか、容易には判別できなかった。
 いささかあざとく見える一方、葵には似合っている白い下着を見ながら亜里沙は続ける。
「アタシみたいなのに引っかかっちゃってさ。龍麻をフッたんだって?」
 東京を救った男という荒唐無稽に近い事実は置くとしても、
外見も中身も申し分ない龍麻を袖にしたというのは、龍麻を知る女性からは相当の驚きをもって迎えられ、
中には葵に非好意的な視線を向ける者もいた。
それらの視線に亜里沙は迎合しなかった。
葵に同情したからではなく、単に群れるのが嫌いだったからだが、ある意味では彼女たちより辛辣だった。
心ない言葉に傷つく葵を慰めるふりをして近づき、
彼女の心と身体に生じた隙間を、快楽で充填してしまったのだ。
無論亜里沙は本気ではなかった――少なくとも、心の方は。
しかし聖女とも呼ばれる、世紀末の東京においては信じがたいほど清らかな性根を持つ葵は、
亜里沙に一体どんな救いを見出したのか、彼女と共に在りたいと言いだしたのだ。
「アンタなら龍麻も他の男でもよりどりみどりでしょうに」
 呆れているとも挑発しているとも取れる亜里沙の指摘にも、葵は頭を振っただけで応じなかった。
彼女が口を開いたのは、スカートを脱いで折り目正しく畳み、亜里沙の隣に腰を下ろしてからだ。
駆け引きも迷いもなく座った葵が、亜里沙の右手に自分の左手を重ねて発した呟きには、
年齢にそぐわない疲れた響きがあった。
「貴女に感じたものを、他の人たちからは感じなかった。それだけよ」
「何を感じたのか知らないけどさ」
 亜里沙の吐息にも重さがある。
しかしその重さには、微量の恐怖も含まれていた。
「アタシがアンタを捨てないって保証はないのよ?
他にいい男でも女でも見つけたらあっさり乗り換えるかもしれない。
それに捨てないからって、その間優しくするとは限らない。
そういうのが苦手なのは、見りゃわかるでしょ?」
「それでも構わないわ。捨てられないように努力はするけれど、
もし捨てられたとしても、貴女を恨んだりはしないわ」
 葵の声は砂漠に吹く風のように乾いていたが、同時に梅雨時の雨の重さもあって、
払いのけるのに亜里沙は二度頭を振る必要があった。
「そこまで覚悟がキマッてるんなら、アタシはイイけどさ」
 葵が顔を上げ、亜里沙を見る。
わずかに紅潮した頬を、濁りのない雫が伝った。
「良かった」
 濁った声で葵は安堵し、鼻を啜る。
その顎を摘む亜里沙の顔は、雷雨の直前のような非好意的なものだった。
「重たいのキライなのよ、アタシ」
 理不尽なクレームに、葵は目を見開いてまばたきすると、
顔の下半分を無理やり笑っているように形作った。
「ごめんなさい……これからは気をつけるわ」
 亜里沙の意に沿ったはずの優等生的な答えは、なぜか亜里沙を満足させず、
彼女は葵の上向かせた顔をそのままに、不意に唇を奪った。
「――!」
 驚く葵に構わず、釘を打つように舌をねじこみ、口内を蹂躪する。
歯列を舐め、舌を根こそぎ吸うような、おぞましいほどのキスにも、葵は逆らわない。
親鳥から餌をもらう雛鳥のように亜里沙の舌を受け入れ、流しこまれる唾液を啜りさえした。
「う……ん……」
 くぐもった声と、濁った水音とが響く。
唇が重なり、離れ、また重なり、幾度もループを繰り返す。
ニ種類の音はその度に混じっていき、ついには泥を撹拌するような音になった。
「ふう……」
 さすがに息を切らして亜里沙が顔を離した。
葵の顔の下半分はセメントのように練られた唾液で醜く白濁している。
これで葵が現実を直視、少なくとも葵が夢見ているようなものを自分は見ていないのだと
気づくかもしれないという亜里沙の期待は、儚くも裏切られた。
唇を幾度か開閉させて唾液を拭った葵は、行為の生々しさ、
あるいは汚らわしさをなじるでもなく、バスタオルを巻いただけの亜里沙の、
むき出しの肩に顔を近づけると、先ほどのキスとは比較にならない稚拙な、
しかし情感においては上回っている口づけをし始めたのだ。
肩に、鎖骨に、そしてバスタオルを剥ぎ取って乳房へ。
その程度で怒ったり狼狽したりする亜里沙ではないが、
拙速というよりもそれしか眼中にないといった行動には苦笑するしかない。
「アンタ、ホントにオッパイ好きね」
 揉まれてバストが大きくなるというのは、単なる迷信のはずだ。
しかし葵とこうした関係になってから亜里沙のサイズが大きくなったのは事実であり、
亜里沙も迷信を信じてしまうくらい葵は乳房に執着を見せた。
 唇で乳房を食み、乳首を弄る動きはよくもそれだけバリエーションがあるものだと感心するほど多彩だ。
もう片方の乳房もおざなりにせず、こちらも多種多様な動きで延々と愛撫を続ける。
一方的な行為に痺れを切らした亜里沙が止めさせるまで、五分以上も乳房を愛しみ、
ようやく離した顔にはなお物足りなさがありありと浮かんでいた。
「訊きたいんだけどさ、アンタ最初っからレズだったの?」
「違うわ。少なくとも亜里沙に抱かれるまで、女の子を好きになるだなんて考えたこともなかったわ」
 答えてから、葵は軽く眉根を寄せる。
これらの困った表情が彼女には良く似合い、それが亜里沙を戯れさせた一因でもある。
「でも、そうね、潜在的にはそうだったのかもしれないわね」
 一転して破顔する葵に、亜里沙は肩をすくめるしかなかった。
 ベッドに横たわった二人は、野放図に戯れている。
広いベッドの上を、向きも姿勢も構わず、欲望のおもむくままに動き、触れていた。
「あ……っん、ああ、亜里沙……」
 唇に始まり、そこから肩や鎖骨、乳房、腹部と目についたところ全てにキスを落とす亜里沙に、
負けじと葵もキスをしていく。
だが、軽やかな亜里沙のキスに比べて葵のキスは一つ一つが長くなりがちなのと、
亜里沙が避けるので思うようにはいかない。
さらには舌も交える亜里沙の技巧に、葵は呼気が途切れがちになってしまい、
気づけば防戦一方となっていた。
手と口が複数あるのではというくらい身体のあちこちを触られ、
すっかり上気した葵は、ふと顔に影を感じる。
見上げるといつのまにか逆さまになった亜里沙が跨っていた。
陸上部だと聞いていたが、その割に白い足。
だが葵が驚いたのはその白さ自体ではなく、その白さがどこまでも続いていたことだった。
下腹部にあるべき黒い陰りが、亜里沙には全くなかった。
そのため秘唇が露わになっていて、複雑な形をした女体の神秘に束の間葵は息を呑んだ。
だがそこに触れるよりも先に、浮かんだ疑問を解決しておく必要があった。
「……脱毛……しているの?」
「そうよ」
「どうして?」
「どうしてって、ハミ出るからよ」
 簡潔な返答はそれ以上の質問をためらわせ、葵は消化不良のまま亜里沙の秘部を再び観察した。
 小さな花弁に挟まれた深い溝。
そう使いこまれているようには見えないが、自分のを含めて他の女性器を見たことがない葵には確信が持てない。
確かなのは亜里沙のその部分が、葵には愛おしいものだということだった。
剥きだしの、そうされるのを待っているかのように佇むひそやかな溝に葵は指を伸ばす。
「アンタ……少しは遠慮ってモンをしなさいよ。いきなり触るなんてさ」
「ご、ごめんなさい」
 たしなめられて慌てて葵は指を離す。
すると間髪おかずに亜里沙が同じ場所を触り返してきた。
「きゃっ……!」
 不意を突かれた葵の腰が浮き、亜里沙が含み笑いを漏らす。
「まだまだウブねぇ」
 軽くあしらわれた葵は、赤面を隠すように亜里沙の足の間に顔を埋めた。
両手の人差し指でまだ閉じている花弁をくつろげ、一度彼女の臭いを吸ってから舌を這わせる。
何種類かが混ざった濃密な臭いは必ずしも好ましいものではない。
だが口と鼻の――身体の奥深くまで吸いこむと、頭が痺れ、下腹が熱を帯びていくのだ。
亜里沙に教えられたその感覚が、葵は嫌いではない。
誘われるままに顔を埋め、濃紅の洞を五感で探った。
「んふン……悪くないけど、まだ物足りないわね」
 亜里沙の呟きと同時に葵の淫唇からマグマのような熱感が噴きあがる。
いつの間にこれほどの熱を蓄えていたのか、葵は思わず亜里沙の股間から顔を離し、身体を震わせた。
「あ、あッ……!」
 馴染みではあっても慣れない感覚。
許容量よりも少し多い快感が、脳から理性を剥いでいく、危険だけれども得難い悦び。
葵はその悦びに身を任せ、下腹の熱を解放する。
「おツユが出てきたわよ」
 亜里沙の報告に下半身は恥じらってみせるが、顔は逆に亜里沙の陰部に一層埋め、
彼女の泉からも蜜を湧きださせようと刺激を強めた。
閉じたスリットを這う舌の動きは、亜里沙のそれと較べると、小さく、遅い代わりに丁寧さで優る。
亜里沙に言わせればムズ痒いということになるが、丹念に、情感を込めて舐め回せば、
自然と葵のその部分と同様に蜜を吐き出し始めた。
「……ん……」
 舌先に伝わる淫滴を口に含み、唾液と混ぜて亜里沙の陰部に塗っていく。
漂う牝の臭いを鼻孔の奥に吸い、口を開けて体液を啜ると、目の奥が瞬くような酩酊感に囚われた。
規律だとか秩序だとかいった枠から解き放たれる感覚が快く、葵は心持ち足を開く。
「なァに、もっとシテ欲しいの?」
 亜里沙の問いかけは完全な正解ではなかったが、葵はわざとだらしなく、
余計な力の入っていない赤ん坊のように股を広げ、女の深奥へと至る洞の入口を差しだした。
「イイじゃない……今更ブリっ子ぶったらどうしてやろうかって思ったけど」
 指と舌とが同時に敏感な部分を刺激する。
「あッ……!」
 期待していたよりも強い快感が葵を襲う。
しかし足の付け根は亜里沙に押さえられていて閉じられず、無様に腰だけが動いた。
「いいわよ……エロくて」
 啜った愛蜜を舐め回した亜里沙は、一層激しく葵を責め立てる。
洞に浅く指を沈め、湧きだす蜜を撹拌するように動かし、外側からは淫珠を舌で弄ぶ。
長い舌で絶え間なく、無尽に愛撫されて、もはや葵は亜里沙に応じるどころではなく、
喉を反らせて昂ぶりを叫ぶしかない。
「あッ、あ、駄目、それッ……!」
 亜里沙の太腿にしがみつき、悲鳴とも歓喜ともつかぬ喘ぎをほとばしらせる少女は、
悪魔に憑かれたようですらあった。
白い足を浅ましく広げ、下腹部を卑猥に浮かせて快楽に耽る。
与えられる悦びにむせび、同じものを亜里沙にも与えようと舌と唇を動かした。
「ふふッ、そう、そこよ……奥まで舌を挿れて……あッ、ン……いいわ……」
 亜里沙の嬌声が嬉しくて、葵は夢中で彼女の洞を舐める。
葵にとって至福ともいえる時は、だが長くは続かなかった。
「ちょっとがっつきすぎよ」
 無情にも亜里沙は身体を起こし、楽園を奪われて不満顔の葵に笑ってみせると、
おもむろに彼女の左足を担ぎあげ、松の葉の根元めがけて腰を突きだした。
充分な愛液で潤う二本の秘裂が、耳の奥に残る音と共に密着する。
「あぁ……」
 深い陶酔が葵の唇を濡らす。
身体の各所で快感は得られるが、この溶けあうような悦びは、
やはりこの、性器同士を触れ合わせた時が一番だった。
初めて亜里沙にこれをされた時、天にも昇るような心地となった。
その悦びは回数を重ねても減じることがなく、溺れている、という自覚を葵にさせている。
「あああッ、亜里沙ッ……!」
 シーツを毟るように掴んで哭く。
一瞬で頭の先にまで満ちた快楽に、全身が震えた。
 彼女の通う真神学園では聖女とも称される美少女が、身をよじり、
肉体を快楽に捧げて恥じるところもない姿を晒している。
その痴態に興奮するのは亜里沙も例外ではなく、腰の動きに滑稽なほど反応する葵の足首を肩に乗せ、
動きを封じておいて彼女の淫珠を擦りあげた。



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